レイモンド西淀保育園

壁と緑との対話 園児数:120名

南側外観

外壁右上には法人マスコットキャラクターのレリーフが映えます。

ピロティ―

床を汚しやすい制作あそびもできる玄関先の屋根付き半屋外空間です。

履き替えべんち

未満児の靴の脱ぎ履きには、ベンチを兼ねた低い下駄箱が役立ちます。

クックギャラリー

かいだんの踊り場からは、調理中の様子が見渡せます。

かくれがから見る

各保育室にあるかくれがら見た保育室。床には杉板を使っています。

屋上

土を乗せて屋外遊戯場としました。


壁と緑との対話

町工場が建ちならぶ準工業地域内の新築保育所です。人々の生活と労働の香り豊かなまちなみは、人間のぬくもりを感じる味わい深い土地柄であるのですが、残念なことに緑が極めて少なく、とても乾いた印象でした。また、産業道路に近接しており、工場の煤煙に自動車の排ガスが加わって、外壁が汚れやすいことを園長は懸念されていました。そこで提案させていただいたのが光触媒サイディングだったのですが、実は、提案にはかなりの葛藤がありました。


私は、塗装済みサイディングもまた乾いた印象の材料だと感じていて、工業製品であるが故に、自然に近づけようと造れば造るほど不自然で無味乾燥な肌になっていきます。だから、乾いた印象のまちなみの中で、それを用いて外壁を構成することを躊躇していたのです。せめて現場塗装で砂粒状の吹付けでもすれば、もう少し湿りを感じるファサードが実現できるのではないかと考えたりしましたが、予算と防汚という観点から、それは難しかったのです。


同じころ、行政から貸し付けられた敷地が狭隘で、地上の園庭だけで基準を満足することが難しかったこともあり、屋上にも土を載せて複数の園庭をつくろうということになりました。ならば、ついでに庇の上にも土を載せて緑化すれば、サイディングのファサードに潤いを与えることができるのではないかと考え、庇上にマホニアコンフーサを列植することを提案しました。地上にも高低木や地被を植え、屋上園庭には、開園後、徐々に植物を植えていこうということになりました。庇上のマホニアは、こどもたちと成長を競うように育っており、間もなくパラペットから顔を出しそうです。これまで無言だったサイディングのファサードが、植栽の力によって饒舌に語り始めるかもしれません。


どんどんよごす

園舎はよごしてなんぼだと思っています。柔らかい肌触りと断熱性、そして、こどもたちに本物にふれてもらうために、保育室の床に30mm厚の杉板を使いました。ただこの材料を使うと、汚さないようにとの配慮からこどもの生活に制約をかけてしまい、保育が矮小化する懸念があります。園舎をきれいにお使いいただけるのはうれしいことですが本末転倒なので、どんどんよごせる部屋を設えました。清掃の容易な床シート貼りの「ランチルーム兼キッズアトリエ」では、食事やクッキング、製作遊びなど多様なメニューに対応できます。


また、大地のひろばと連続する半屋外の「おやねのひろば」は、床をタイル貼りにし、壁に光触媒による浄化作用のあるサイディングを用いて、絵の具や水などを多用する製作遊びを大胆に展開できるようにしました。雨天時の遊び場や、雨具の着脱スペースとしても機能するピロティー空間です。乳児の保育室では、食べ物が床に散乱しがちな手づかみ食べの時期に、食べる喜びを思いっきり感じられる保育ができるよう、食事コーナーを設けて乳児の食寝分離を行い、他の生活空間より清掃しやすい床材を選びました。他には、玄関の正面に、「クックギャラリー」を設けて加熱調理の様子を見ることができるようにしたり、狭小敷地で屋外遊戯場が十分に確保できないため、2階と3階の屋上に土を載せた「おそらの園庭」を設け、土や草花や生き物と触れ合える場を補ったり、収納下を利用した「かくれがコーナー」を設け、時々の気持ちによって居場所を選べるようにする等の工夫を盛り込みました。制約の少ない環境が、保育の幅を拡げ、その幅の広がりが、こどもたちの豊かな生活につながっていきます。


名称:社会福祉法人檸檬会 レイモンド西淀保育園

工事種別:新築

建築場所:大阪市西淀川区

延床面積:735.37㎡

構造・規模:鉄骨造 地上3階

園児数:120名

園ホームページ:レイモンド西淀保育園

掲載:『近代建築』2019年10月号第73巻10号(特集 保育施設の計画と設計)

受賞:ケイミュー株式会社『ケイミュー施工事例コンテスト2018』近畿エリア賞